2020年03月25日

CFP vol.41 前田比呂也さん

現在、中学校の校長先生を務めながら、美術の分野でアート作家として活躍している前田比呂也さん。
前田さんから美術教育の必要性を伺ってきました!!


CFP vol.41 前田比呂也さん


CFP vol.41 前田比呂也さん


-アデ子-
こんにちはおすまし
いきなりですが、眼の前にあるこの黒っぽい漆?は前田さんの作品ですよね!?

CFP vol.41 前田比呂也さん


-前田さん-
これはサンゴで出来ています。


-アデ子-
えっサンゴですか!?サンゴには見えませんが・・・不規則な凹凸がありますね。何を表現しているのですかはてな


-前田さん-
この作品は沖縄の歴史的背景をモチーフにして作っています。
表面は黒い漆で覆われていますが、その下には赤い漆が塗ってあります。
サンゴを沖縄ナショナリティに見立て、サンゴの不規則な形の上にストッキングを被せて凹凸を画一化しています。その上に漆(赤漆、黒漆)を塗りました筆


-アデ子-
そういえば、ここの特に凸箇所の黒い漆は薄くなっていて、ほんのり赤みがかっていますねびっくり


-前田さん-
漆は人に触られて擦れてくると、10年くらいの時間をかけて特に突起の部分から薄くなり黒い漆の下にある赤い漆が浮き出てきますコレ!
沖縄という島は、サンゴで出来ていますね沖縄本島
かつて沖縄は中国の属国で、その時代は主に赤い漆器が生産されていました。
その後、薩摩に侵略され日本となっていきますが、その時は黒い漆器を生産しています。
サンゴという沖縄ナショナリティが、他文化のカラー(赤漆と黒漆)で覆われている様子を表現しています。


-アデ子-
前田さんは中学校の校長であり、専門は美術とのことですが、いつ頃から美術に携わっているのですかはてな


CFP vol.41 前田比呂也さん
琉球新報より、慰霊の日特設授業の様子


CFP vol.41 前田比呂也さん
前田さんの作品


-前田さん-
僕のおやじは漆職人でして、当時バンボウという漆屋を営んでいました。幼い頃、若狭小学校からの帰りによくバンボウにいる職人たちの仕事を見ていました。美術は当たり前に身近にありましたし、社会人最初の15年くらいは沖縄県立美術館・博物館の準備室で仕事をしていました。


-アデ子-
当たり前にあった環境が前田さんを美術へ導いたのですね。
美術館でお仕事をするとなれば、海外のアーティストや作品にも目キョロキョロを向けるようになると思うのですが、海外で過ごした経験はありますかはてな


-前田さん-
実は、ヨーロッパで油絵を描いて暮らしたいと考えた時期があって・・・海外の日本人学校に勤務するために文科省に応募したんですね。そうしたら、派遣先が香港の小学校に決まってしまいがっかりしました。1990年~3年間香港の日本人学校にいました。
結果的に香港で良かったんですけどね。今の僕を形成するくらい大きな影響を受けました。


-アデ子-
どのような影響を受けたのですかはてな


-前田さん-
ちょうど僕が香港へ渡った頃、コウズエベイという地区のキングスロードで、天安門事件追悼一周年のデモがありました。
学校の現地スタッフでさえ中国の不安定な社会情勢を恐れてカナダなどの北米に逃れる人が多かった時期でした。
僕が香港へ渡って3年目には、香港へ出戻る人々が増え始めていました。


CFP vol.41 前田比呂也さん
追悼デモの様子



-アデ子-
出戻ってきたのは、情勢が落ち着いたからですか!?


-前田さん-
当時の香港はイギリスからの返還が目前に迫っていた頃で『中国とは違う新しい香港を作ろう!』をスローガンに、新しい香港アイデンティティを求めた民衆が敢えて、香港に留まったんです。ジャッキー・チェン(俳優)やアニタムイ(歌手)がその例ですね。


-アデ子-
地元を大切にしたいという想いが強かったのでしょうか。


-前田さん-
個人とナショナリティー。
民族的、文化的背景などに向き合い、どうやって折り合いをつけていくか。将来をどう見通していくか・・・。
与えられているもので生きるのではなく、選択しながら生きる。
香港から出ていくのか、出て行って中国で暮らすのか。
香港人としていきていくのか、中国人として生きていくのか、自分の生き方を香港の人達は選択しなければいけなかった。
そーゆーことってあるんだなぁ・・・と思いました。
僕にとっては大きな出来事でした。



-アデ子-
激動の香港で、前田さんは日本人学校の教師をされていたのですね。
そのときも絵は描き続けていたのですかはてな


-前田さん-
はい。香港では個展を開きましたニコニコ
当時バブルの時期でギャラリーは沢山ありましたが、貸してくれる場所がなかなか見つからず汗
絵を抱えながら、オファーしては断られていましたタラ~
そこで香港アートセンターに相談してみたら香港市政局が、香港ビジュアルアートセンターを貸してくれるということになってニコニコギャラリーではなく公立の美術館で個展をすることが出来ましたGOOD


CFP vol.41 前田比呂也さん
前田さんの作品

CFP vol.41 前田比呂也さん
前田さんの作品


-アデ子-
凄い展開ですねΣ(・ω・ノ)ノ!


-前田さん-
香港がきっかけでアジアに関心が向き、その後はシンガポールの美術館で1年間勤務しました


CFP vol.41 前田比呂也さん
マーライオン


-アデ子-
海外に出ると意識や物事の考え方って変わりますか!?


-前田さん-
変わりますね。
香港もシンガポールも小さな地域という意味では沖縄とそんなに変わらない。なのに、国としてしっかり機能しているし、サバイバル感覚がある。苦しくても自分で決めてやっていくことを目の当たりにしました。
それに比べると沖縄は、補助金など日本政府に依存している面が強い上に、気持ち的にも自立できていない気がするんですよ。


-アデ子-
確かに・・・自立心って教育を通して徐々に培われていくものだと思いますが、いかがでしょうはてな


-前田さん-
そうですね。アデ子さんは、シンガポールの教育制度を知っていますかはてな
シンガポールでは12歳になるとPrimary School Leaving Examination(小学校の卒業試験)があります。テストの結果次第で大きく進路が左右されます。どういうことかというと、テストの結果が良ければ大学進学へ向けた教育へ進み、結果がふるわなかった子達は社会に出て役に立つような技術系の職業訓練に進みます。
それぞれの役割を認識しやすいですし、良い点数が取れた子は貧しくても博士課程までちゃんと国が面倒をみてくれますキョロキョロ


-アデ子-
早い段階で将来を見据えた取り組みが始まるんですねびっくり!!


-前田さん-
そうです。大器晩成という言葉はシンガポールにはありません。
不思議だったのは、上位と下位を分けると差別に繋がる気もするけど、そんなことはないんですよ。
成績下位の子達が受ける職業訓練は優れていて収入も同等にある。テストを以て適性が決められ、自分自身の努力次第で望む仕事に就けるんです。
ちなみに、世界で実施されている学習到達度調査では毎回上位です。
項目は全部で3つ。読解力。数学的リテラシー、科学的リテラシー。
沖縄も学習到達度調査がありますが、無回答が多いんですよ。
意志表示や記述表現、特に言葉での表現が苦手な子が多いです。



-アデ子-
そういう能力って、どうすれば育てられると思いますかはてなはてな


-前田さん-
言葉の表現や意思表示などの能力を培うには、美術の授業が最適です。
美術って答えが1つではありませんから、自分が選択したものを正解にしていく。
絵は1人で見て分かることもあれば、みんなで見て分かることもある。
自分と全く違う価値観をもつ人、育ちが違う人と同じ絵を見て感覚の違いに気づくことで物事の見方が深まります。
「あなたの意見は尊重されていますよ!」と自己肯定感を育てること。あなたが喋っていることを皆がちゃんと聞いてくれている、という経験が大事なのです。


-アデ子-
なるほどキラキラ 
最後になりますが、前田さんが考える美術教育についてお聞かせください。


-前田さん-
学校とは本来、子ども達が自由に表現出来る環境を先生達がつくっていく場所だと思っています。
美術や音楽などの授業では、自分を好きになる瞬間、自分が認められる瞬間があります。そのことは一生自分を助けるし、生きる力にもなります。絵を描くこと、物を作ることって本来は楽しいんですね!その気持ちを育むのが美術教育だと思います。学校教育において美術の授業は大切ですね。
ちなみに海外では、自己主張しないと自分の場所が守れないですから、自分を信じて海外へ行ってみるのも良い経験になるでしょうね。


-アデ子-
アート作品を見るだけでなく、作品についていろんな人と感想を述べあうことも大事なんだなぁと思いました♪赤


-前田さん-
私はよく、子どもたちにゴッホの「ひまわり」の絵を見せて「どのひまわりが自分だと思うはてな」と尋ねます。
大事なのは理由をちゃんと聞いて認めることです。
皆さんも試してみてください。いろんな意見が聞けて面白いですよ(^o^)

CFP vol.41 前田比呂也さん


Interviewee:前田比呂也
Interviewer:アデ子・ごさまるお・ちゅら子
Tape transcription:アデ子
Editor:ごさまるお
Proofreader:プー子



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